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  • 執筆者の写真Kazuhiro Yorimitsu

大切なものを見つけるまで




 能登半島地震が発生してから1か月が経ちました。発生翌日の1月2日以来、約1か月ぶりに輪島市内を訪れました。理由は、地震で妻と長女を亡くされた居酒屋店主の楠健二さん(55歳)にお会いするためです。ここ数日の報道で、楠さんが倒壊した自宅から遺品を探していることを知りました。

 あの日、隣接するビルに押しつぶされ倒壊した楠さんの自宅では、消防隊員が余震の続く中、瓦礫の中にもぐり長女の珠蘭(じゅら)さんの救出活動を続けていました。そばには絶え間なく「頑張れ」と声をかける健二さんら家族の姿がありました。ただ、懸命の救出活動の甲斐なく、珠蘭さんは亡くなりました。珠蘭さんは5日後に成人式を迎えるはずでした。翌日には由香利さんも遺体で見つかりました。

 横たわる珠蘭さん…かすかに香る潮風の中に、健二さんの嗚咽が響きました。「なんでだよー」という健二さんのやり場のない声が、今も耳の奥に残っています。シャッターを押す指は重く、胸が苦しかったです。あまりにつらく、健二さんに声をかけることはできませんでした…

 現場を再び訪れたのは、あの時写真を撮ったということを、ちゃんとお伝えしたかったからです。健二さんと言葉を交わした後、献花させていただきお二人のご冥福を祈りました。

 健二さんは、倒壊したビルが覆いかぶさる危険な状況の中で、妻の由香利さんからプレゼントされた時計と二人の携帯電話を必死で探しています。時折、拾いあげた瓦が割れる音がします。健二さんのやり場のない怒りのように聞こえました。

 大切なものを探す健二さんのかたわらで、ハンガーにかけられた居酒屋のTシャツが風に揺れています。変わらぬ風の音と悲しみ…ひと月ぶりに訪れた輪島の町は、あの日のまま時が止まっていました。 


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